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できるだけ、ストーブは焚きたくない。使っている間はあまり実感しないけれど、半月後くらいに送られてくる請求書を見て、あまりの金額に眩暈がして、膝から崩れ落ちるのは御免こうむりたい。とはいえ、冬の北海道は慈悲深いところを少しも見せてくれず冷え込みを強くして、テレビの天気予報では「三月の最低気温としては過去最高です」と、気象予報士がどこか誇らしげに告げていた。何故そんな楽しそうに笑いながら、平然とそんなことを抜かせるんだ。どれだけ絞っても、月に樋口一葉を一人は犠牲にしているというのに。
「今更もう、どれだけ絞ったって無理じゃない」
彼女は、どこか小馬鹿にするような口調で、そんなことを言ってきた。僕は猛然とそれに反駁する。
「引っ越したくても引っ越す金がないんだから、あとは変動費をどれだけ削れるかにかかってるじゃないか」
「あなたはそう言うけど、こんな寒い部屋で寝起きして、風邪を引いた結果として医療費を嵩ませるなら、この我慢大会にはなんの意味もないよ」
んぐっ、と喉の奥で音を鳴らし、僕は押し黙った。何も言い返せない。彼女の言っていることの方が、ずっと正論だ。だまって寝ているだけで病気は治らないし、そもそもお金がない今、一日でも一時間でも長く働いて金を稼がなければいけないのに、呑気に寝くさっている時間など、どこにもないではないか。
そう、僕には金も、時間もない。
けれども、何かひとつのタイミングがずれていたならば、もしかしたら、未来への希望すらも持ち合わせていなかったかもしれない。
そうでなかったことだけが、不幸中の幸いだ。
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