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「その結果が、こうなっている……ってわけね」
彼女は、僕の部屋の中をきょろきょろと見回した。
創作活動に没頭するようになった僕は、最初こそ、ただ読書をする時のように、街のどこかでパソコンを開いて創作活動をしていたけれど、ふと(どうせこんなに高い家賃を払うなら、多少は暖房費がかかっても、家で書いた方が結果的に得じゃないか)ということに気づいた。もっと早く気づくべきだった…と思うことはたくさんあったけれど、このことはそれらの中でも比較的上位にランクインすることであったのは間違いない。
物書きに行き詰った時、僕は決まって部屋の掃除をするようにした。部屋が綺麗になっていけばいくほどに、なんだか憑き物がとれるように、気持ちも頭の中もすっきりしていくような気がしたのだ。もう二度と着ないであろう服も、元恋人が残していったものも、もらった手紙やプレゼントも、全て捨てた。過去の全てが無駄だったとは思わないけれど、これから新しい日々を生きていく僕に、これらのモノは無駄だ…と感じたからだ。なにより、あの人の中にはきっと、もう僕の痕跡など欠片ほども残されていない。ならば、誰に遠慮することもない……と言い聞かせて、僕は元恋人と写した写真を、部屋の片隅で埃をかぶっていたシュレッダーに喰わせたのだった。
「いい傾向なんじゃない」
ホットミルクで喉を静かに鳴らして、彼女は言った。勝手に他人の家の物を食ったり飲んだりするな…と彼女を咎める気持ちは、僕にはない。直接的にではないにせよ、何も残っていなかった僕に、もう一度光を与えてくれたのは、彼女だ。むしろ積極的に寄進してやるべき存在であるとも言える。
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