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ちょっと拍子抜けしたらしい。アキラはのぞき込むように私を見る。私は肩をすくめた。 「泣くことじゃないでしょ。黙っていなくなったら許さないけど」 「……まぁね。そうだね」  私たちはたぶん、同じ一人の人のことを思った。  アキラが手を伸ばして、私の髪を軽く掬った。 「おれがいなくてもきれいにしなよ、セツ。それがいちばん心配だな。ときどき写真送ってよ。アドバイスするからさ」 「アドバイス? ダメ出しでしょ?」 「どちらになるかは、アナタの努力次第です」  珍しく、アキラは笑った。 「セツは地味すぎる」  と高校に入ったばかりのころにアキラは言い出した。  私は気にしなかったけど、そのうち顔を合わせるたびに「地味」と不満げに言うようになってくると、さすがにうっとうしかった。 「うるさいなぁ、もう。いいじゃない地味で。誰も迷惑してないでしょ?」  とうとう文句を言うと、アキラは待ち構えていたように自説を述べ始めた。 「おれは迷惑してる。セツがきれいじゃないと気分が落ち込む。せめて髪型くらい変えて、服もピンクとか花柄とかドットとか着てほしい。セツの服つまんないんだよ、全部無地だし、モノトーンとベージュとデニムばっかりじゃん」  よっぽど心に溜まっていた感情があったようで、熱い語り口に私は気圧されてしまった。 「な、なによー、モノトーンとベージュとデニム、最高でしょー? なにが悪いっていうのよ?」  楽だし。目立たないし。多少傷んでも気にならない、最高。 「ダメだよ、彩りがないと心が荒む。いましかないんだよ、おれがセツと暮らしてる時間は。セツの小汚い服装ばっかり見て暮らすのはやだ」 「小汚いとまで……?」  なんてことを言いだすのこの子は。モノトーン屋さんとベージュ屋さんとデニム屋さんに謝りなさい。  私がそう反論する前に、アキラは一方的に決断を下した。 「行くよ、セツ」 「なんてことを……え、なに、どこに行くの?」 「ファストファッションとか、リユースショップとか、とりあえず」 「は? ファスト? なに?」  聞きなれないカタカナ語に戸惑っていると、アキラはやってられないとばかりに首を振った。 「勘弁してよ」  その日初めて、アキラは私を連れ出して、服を買ってくれたのだった。
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