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住宅地の外れにぽつんと残された、小さな雑木林。
舗装もされていない、石ころだらけの細い道に面した縁に、小さな石造りの鳥居があった。
大人は背を屈めないと頭をぶつけてしまう、そんな鳥居を誰が何のために作ったのか、柱に刻まれた文字は何も教えてくれない。
ただ、それがとても古いものであるということの他は。
その小さな鳥居をくぐった先、両側に木々や下草が生い茂る、道と言うより隙間と言ったほうが似合いそうな小道の突き当たりには、これまた古い祠があった。
見た目は犬小屋よりもまだ小さく、心なしか斜めに傾いたそこには、お稲荷様が祀られていた。
正面にある両開きの扉を開けると、そこには手のひらに載るような白い狐の像がちょこんと座っている。
「……あぁ、今日もお天道様が張り切ってるねぇ」
祠の中から、くぐもった声が聞こえる。
途端、その小さな白狐がもぞもぞと動き出し……もふんと大きくなった。
祠いっぱいに、モフ毛が戸口からはみ出るほどに。
「うわぷ! せまっ! せめーだろコラ、中でデカくなるんじゃねーよ!」
もふもふが詰まった祠の奥から、もうひとつの声がする。
ぎゅうぎゅう、ぼふんっ!
小さな扉から押し出された狐は、危うくバランスをとって四本足で着地を決めた。
「やぁだ、もう! 転がったらキレイな毛並みが汚れちゃうじゃない!」
ぶるぶると身体を振って、ますますもふもふに膨らんだ狐は、祠の暗がりに向かって尖った鼻先を更に尖らせる。
「おめーだって神サマの端くれだろ、地上のアクタにまみれたくれぇで汚れなんざ付くもんかい」
大きく伸びをしながらのっそりと現れたのは、大きな黒猫だった。
ぴんと伸ばした長い尻尾が二本、ゆらゆらと左右に揺れる。
猫又だ。
「あたしは神様じゃないわよ、元々はただのお使いさね」
狐は身体よりも大きく膨らんだ尻尾を額にかざして、日除けにしながら空を見上げた。
「ただ、いつも稲荷の神様と一緒にいるもんだから、あたしまで神様だと思われちゃっただけ」
神様のお使いだけあって神格を備えてはいるのだが、所詮はお使い、単なるメッセンジャー。
お賽銭を投げられても、願いを叶える力はない。
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