はじまり

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 振り向いた猫又は二本の尻尾をぶわっと膨らませ、背中の毛を逆立てて後ずさる。 「ゆゆゆ、ユウレイ!?」 「バカね、あんた。妖怪がオバケ怖がってどうすんのよ……って言うかあたしオバケじゃないし」  どろん、という擬音が脳内で再生される。  微かな煙と共に姿を現した狐の額には、三角巾ならぬ葉っぱが一枚。 「狐は人を化かすって言われてるけど、これ妖怪相手でもいけるわね」 「お、おま……っ」 「消えないわよ」  そう言われても、猫又には何のことかわからなかった。 「信仰がなくなったら消えるって、あの話。真っ赤なウソだから」 「へ?」 「やあねぇ、神様はそんなヤワじゃないわよぉ」  尻尾の先を顎に当て、狐はカラカラと笑い声をたてる。 「ただ、ほら、そういうことにしといたほうが盛り上がるでしょ、ドラマ的に」 「な……っ」  猫又の毛がまだ逆立っているのは、恥ずかしいとか悔しいとか穴があったら埋めてやりたいとか、そんな感情が渦巻いている結果なのだろう。 「で、あたしも訊きたいんだけど……あんた、名前は?」 「教えねぇ!」  猫又は今度こそ絶対に戻さない覚悟で顔を横に向けた。  狐の笑い声が耳をくすぐる。 「じゃあいいわよ、あたしも教えない。その代わり……」  煙の微かな匂いが鼻についた。  狐の声が一段低くなる。 「新しい名前、考えといてちょうだい。今風のやつ、ね?」 「は?」  覚悟の甲斐もなく、猫又は思わず振り返った。  その目に映ったものは。
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