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白い肌に切れ長の目、真っ直ぐな黒髪を狐の尾のように結んだーー
「お、おまっ、狐、お前……っ!?」
黒のスラックスに深紅のベストと蝶ネクタイ、そして前を外した三つボタンの黒ジャケット。
「オスだったのかーーーっ!?」
「やぁね、品のない呼び方しないでちょうだい。男性と言って、だ、ん、せ、い☆」
現代の人間男性は皆、このような格好をしているのだと狐は言う。
しかしその姿は、どう見てもホストだった。
「お前その知識どっから仕入れた……つか話が見えねぇ、オレにもわかるように説明しろ」
「簡単な話よ、働かざる者食うべからずって言うでしょ?」
きっと、お供えはもう二度とない。
しかし神とて日々の糧は必要、ならば自分で稼ぐ他にはないではないか。
「これからは居候からもお家賃をいただくから、そのつもりでね」
「オレにも働けってのか、人間に化けて!? いや、そっちはわかった……納得はできねーが理解はした、しかし!」
騙された、完璧に騙された。
「何だよその喋りかたぁ!?」
涙声で指をさす。
「ああ、これ?」
スーツ姿のオネェ狐は、さらりと言った。
「江戸の昔、この近くに井戸があったのよ。あとは……わかるでしょ?」
かしましい江戸のおかみさん連中のお喋りを間近に聞くうちに、口調がうつってしまった、と。
「さぁーて、あんたはどんな人間に化けるのかしら? 自分で出来る? それともあたしが……」
かくして、お稲荷様の使いの狐と妖怪猫又の、人間界でのドタバタはぁとふるバイト生活がーー
「始まんねーよ!!」
求む、お供え物。
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