1人が本棚に入れています
本棚に追加
「オレは思ったんです。オレが色水持ってくるのを忘れたから、彼女はその代わりに死んだんだ、って」
鼠谷が急に話し出したのは、暇つぶしには重すぎる過去であり、鼠谷の傷だった。
「…そんな馬鹿な」
「はい、今ではちゃんと分かってます。あれは不幸な事故だった、あの色水は何の関係もない」
自分に言い聞かせるように言う鼠谷は、いつもの何を考えているのか分からない笑顔じゃ無かった。
無理やり作っているのが分かる。
「でも、あれから桜の木の下が怖いんです。本当は近付くのもダメです。
桜の木の下でオレが何がしたら、また誰か死ぬんじゃないか。バカバカしいけど怖くて仕方ないんですよ…」
オレ自身なら良いのに…と、付け加えた鼠谷は、途方に暮れた迷子の様な顔で、力無く笑った。
「…じゃあ、何で今日は来たんだ?」
「何でって…仕事ですから、休む訳にいきません。それに、猫田先輩居るから大丈夫かな、って!」
鼠谷は笑顔で答えた。
そんな震える手で、大丈夫、ってなぁ?
「…」
「?」
キョトンとしている鼠谷。
自覚はないのか…
良く見ると顔色も良くなさそうだ。
「…お前、変なところで不器用なんだな。確かにイメージ変わったよ」
「な!」
鼠谷は、珍しく赤くなった。ちょっと面白い。
「体調悪いなら帰れよ。部長らには言っといてやるから」
「嫌です!初めてだし、こんなことで毎回休めません!」
「こんなことってお前…」
いや、こんなことなんてきっと口だけだ。
もしくは、強がりか。
最初のコメントを投稿しよう!