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2人組の刑事はドアを閉めて歩き出した。
「男兄弟の2人暮らしですか。無職の弟を受け入れるなんて優しい兄貴ですね」
「そうか?俺も妹がいるけれど、なんだかんだで可愛かったよ。まぁ今は結婚して旦那を尻に敷いているけどよ」
「兄ってそういうものなんですかね。俺姉ちゃんがいるんですけど、結構こき使われてたんですよ」
「ははっそうか。・・・ほれ次行くぞ」
「はーい、先輩」
沢村は刑事の足音が遠ざかったのを確認してから、廊下の奥のリビングに入った。
純也と呼ばれた青年はマスクを外し、ソファに腰かけていた。とても具合が悪いようには見えない。
「刑事たちは帰ったのか」
「あぁお前のことが見つけられなくて大変らしい」
沢村は薄ら笑いを浮かべながら言った。
「そりゃそうだろう。俺だって、2人も殺した後にここで沢村純也として暮らすなんて思いもしなかったからな」
「不服か?」
「いや、身を隠せて好都合だ。お前こそ殺人鬼と同居なんて嫌じゃないのか」
「僕だって弟殺しの殺人鬼だ。お前と大して変わらない。それに僕も弟の死体を運び出すのに困っていたからね。あの時、逃走中のお前と会えたのは好都合だったのさ」
沢村は声を落として言った。先ほどまでの人のよさは微塵も感じられなかった。
「僕はさ、弟殺したくらいでまだ刑務所なんて行きたくないんだ。なぜ無職で生産性のカケラもない奴を養わなくちゃならないんだ。しばらくお前には弟の純也としてここで生活をしてもらうつもりさ。引っ越して間もない純也の顔なんて誰も知らないからな」
「あぁ。悪くないな」
2人の男はそれぞれ口元に笑みを浮かべていた。
奇妙な同居生活はまだ続きそうだった。
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