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「よし。こんなもんかな」
ペンを置くと、ドクターペッパーを飲みながらスマートフォンをイジっていた千依が、ぱっと顔を上げてこちらを見た。
いつも短い黒髪。耳まで出ていて、ピアスの穴がまだ塞がっていないのが気になってしまう。半年程前に出会った時から、千依はこの髪型で、ピアスもしていなかった。ピアスは似合うと思うけれど、あまり俺の好みではないから、千依がピアスをやめていることは密かに嬉しかった。
「もう書いたんだ。早いね。見せて見せて~」
千依は許しをもらう前から、手紙をのぞき込んでいた。俺は急いで手紙を取り上げた。
「……どういうこと?」
「ダメだ。手紙は他人が見るもんじゃないだろ」
千依はにやけた顔のままだが、声色はいくらか低くして言った。
「へぇ……またそうやって隠し事するんだね。この同居人のことを隠してたのも許してあげたのに。それに今、他人って言ったよね。私たちはもう半年も前から付き合ってるのに」
こんな風に言われると反論できない。いや、反論できるが、してしまったらケンカになりかねない。千依とケンカをしたことはない。けれど、明るくて優しい千依が怒ったらどうなるかなんて想像もつかない。だが、あえて想像するなら……かなり怖そう。
取り上げた手紙を、仕方なくテーブルの上に置き直した。
すると、千依はのぞき込むなんて控えめなことはせず、自分のところに引き寄せてから読み始めた。
事務的でつまらない内容なのに、読み終わった千依はくすくすと笑った。
なにかおかしなところがあっただろうか。誤字があったのかもしれない。だとしたら面倒くさい。ボールペンで書いているから、修正できない。またイチから書き直さないといけない。
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