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再び1号室をノックした。
「コーヒー、お持ちしました」
「悪いな」
ドアが開くなり飛び込んだ。
「な、なにす」
男を殴り倒して女が飛びかかる間も無くナイフをその心臓目がけて突き通す。叫び声も無し。ナイフを抜かないから血もそれほど流れ出ない。多分匂いが流れ出ることは無いだろう。
男を抱え上げて奥へと向かった。
「ジョシュ、開けろ」
小さくノックして呼んだ。すぐにカチリと鍵が開いた。
「この人……」
ドサッと床に落とす。部屋に戻りロープとタオルと布切れを持ってきた。男を縛り上げ、猿ぐつわと目隠しをする。
「どうすんの? この人普通の人でしょ?」
「普通の人ってのが厄介なんだよ。暴れ出すし叫び出す。絶対に解くな。苦しそうに呻くだろうがそれでも放っとけ。そうじゃないと命取りだ、こいつもお前も」
あと4人。5号室は何とかなるかもしれない。問題は4号室だ。狭い中で3人を相手にするのは自殺行為だ。となると外に出さなきゃならない。
5号室をノックした。
「今度はなんだ」
「いえ、さっきご迷惑をおかけしたんでコーヒーをサービスでお持ちしました」
「ずいぶん丁寧だな、何か他に目的があるんじゃないのか?」
男はだいぶ疑心暗鬼になっている。
「いえ、ウチはコーヒーが自慢なんですよ。また寄っていただければと思いましてね」
「確かにいい匂いだ」
「どうぞ。お代わりの分もありますから」
コーヒーポッドを置きながら一口飲むのを確認した。
「こ、こ……れ」
「悪いな、ちょっと銀を混ぜておいた。飲まないんじゃないかって心配したんだがやっぱりコーヒーの匂いって強いんだな」
「よく……も」
その口を抑えつけた。
「静かに寝ろ」
心臓を一突き。
ここまでは恐ろしく順調だ。問題は隣。特にあの愉快そうな男は修羅場をくぐっていそうないそうな気がする。
そこに問題の部屋のドアが開いた。
「あう!」
取っ手に仕込んだ銀をもろに握ったのだろう、毒づく声が聞こえる。こんなに早くバレるのは計算外だった。もっとも狩りで計画を立ててもその通りに運ぶことなど滅多に無いのは承知しているが。
ドアに付けた銀などたいした抑制力にはならないだろう。銃を握りしめ連中が出て来るのを待った。そこにから車の音が聞こえた。
(まさか)
ガラスを割って3人が飛び出てきた。車から降りてきたのは2人。
「遅かったじゃないか」
「いや、途中でちょっとランチをね」
「じゃこっちは俺たちでいただきだな」
「まだ腹いっぱいじゃねぇよ。急いだほうがいい、変な車が後ろからついて来ていた」
「どこかに坊やがいるはずだ、探せ」
まるで自分がいないかのように交わされる会話。
5人。ジョシュは大丈夫のはずだ、そう思いたい。あの窓も強化ガラスを買って来てつけた。あいつらに付け入る隙はないはずだ。
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