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1号室をノックした。
(ここはまともなんだろうな?)
すぐに出てきたのは若いカップルの男性の方だった。
「なに?」
(人間だ)
そうは思ったが念のためチェックだ。
「すみません、今この辺りでコーヒー派手に零しちゃって。今掃除するんでちょっとうるさくなります」
「ああ、いいよ、そんなの」
「悪いですね」
(ここの二人だけは逃がさないと)
元であろうが現役であろうが、魔物と分かっては放っておけない。
「お客さん。申し訳ないんですがね、料金要らないんでモーテルから出てもらえませんか?」
「は? どういうこと?」
「実は……」
そこで男の影になっていた女がチラッと見えた。
「いや、向こうに団体さんになりそうな部屋がありましてね、もしかしたら騒ぐんじゃないかって心配してんですよ。そうなったらこちらにも迷惑かかるかと思って」
「平気よ、私たち。ね? ハニー」
ハスキーな声だ。短い黒髪が良く似合うセクシーな体つき。キャミソールだけで彼の背中にべったりと抱きついている。
(だろうな。あんたにとっちゃ仲間だからな)
またもや予定が狂う。どうしたらこの男一人を助けられるだろう。多分この女は男を食う気だ。自分の命が風前の灯だとは知らずに男は裸の腹を抱いている彼女の細い腕を撫でまわしている。
「ああ、構わないでくれ。早く掃除した方がいいよ。コーヒーの匂いってなかなか落ちないから」
「すみませんね。なんなら後でコーヒーお持ちしましょうか? 作り直すんで」
「要らな」
「もらうよ、悪いね」
「いえいえ。じゃ、後で」
(たまげるな、8人いて人間は俺たち入れて3人だけか)
ジョシュはいない感情になっているだから2人が餌になるというわけだ。車でジョシュを逃がすことも考えたが、途中で何か起きるよりもあの小屋の中に静かにしている方が安全だと思う。
手早く掃除を済ませて新しくコーヒーを持って4号室をノックする。
「早かったね、こっちにもらうよ」
さっきのバイクの男がポットとトレイを受け取った。
「遅くなってすみません。それ、明日片づけるんで置いといてください」
「ああ。俺たちも静かにするから心配要らないよ。夜中には引き上げるから」
(そして夜中にはこのモーテルが空っぽになってるってわけだな)
ドアを閉める瞬間に内側のドアノブを手のひらで撫でた。銀粉の入った小袋を用意していたのだ。
(多少の時間稼ぎにはなるだろう)
外側と窓の枠もさっと撫でる。5号室も同じことをした。手の平にを細工して持っていた。
ここは街からかなり離れている。人が消えても気づかれるのは遅いはずだ。単なる食事のためにここら一帯を無差別に襲っているのか。
(いや、狼男は団体では動かない。何かがおかしい)
こうなると1号室の男を救うには強硬手段を取るしかない。デュークは呼吸を整えながら、ハンターへと戻って行った。
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