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1.デューク ジャック ウェス
「デューク、どうした?」
デュークの動きが止まったことにジョシュが反応した。
「狼男だ、ヤツがいる」
「え! どこに!?」
「4号室だ」
紛れもない真新しい血の匂い。生々しいこの匂いは忘れられるもんじゃない。ジョシュは慌てて名簿を見た。
「えと、ディック・オーウェンってなってる。俺が接客したんだ、ごめん!」
「お前に分かるわけ無いさ」
「どうしよう、今度からペンを銀でコーティングするとか?」
「バカ、バレたと思われればお前が危ないだろ」
「そうか……そうだよね。この人……人じゃないけど、これ、後から男が1人来てる。泊まるんじゃないって言ったからそのまま通しちゃったよ」
「2人……他に客は?」
「隣の5号室に1人、それから1号室にカップル」
「いつまで?」
「5号室は明日の朝チェックアウトの予定だよ。1号室は予定がはっきりしないって」
「マズいな……」
デュークはいったん奥に引っ込んだ。すぐに出てきてジョシュに固いものを押しつけてきた。
「これ、持っとけ。いざって時にはぶっ放せ。俺は連中が消えるか俺が殺るまで眠るつもり無いが何があるか分かんないからな」
「銃!?」
「撃つ練習、前にさせたろ?覚えてるよな?」
「うん、覚えちゃいるけど」
「お前が銃を嫌いなのは知ってるよ。でもこれには命が懸かってる。お前が危ないと俺も戦えない。身を守ってほしいんだ」
「……分かった。デュークの言う通りだ。好き嫌い言ってる場合じゃない」
必要ならさっさと自分の意地も我が儘も引っ込める。こんなジョシュをデュークは密かに自慢している。
「それでも危なくなったら俺を待たずに奥に作ったドアから小屋に飛び込め」
「あの部屋、なんなの? 中の窓もうんと小さいし変わってるよね。すいぶん時間かけて作ってたけどもう出来上がったの?」
「あれは薄い銀で目張りしてあるんだ。連中には絶対に入れない。銀の持つ酸化作用が狼男の血液と混じり合うと酸化するんだよ」
「そうなんだ! じゃ純銀の弾ってこと?」
「銀は沸点が低いから銃で撃つと融解しちまう。普通の弾に銀を混ぜてるんだ。それで頭を撃つ」
「じゃ、手作りなんだね!」
「水は置いてある。今の内に必要な物を片っ端から入れろ。いいか、他のことなんか全部おっぽり出して入るんだぞ」
ジョシュは頷いて保存食をまとめるために奥に向かった。
(1号室と5号室の客を何とかしないと。連中の腹が減ったら食われる)
狼男は群れない。なぜここに連中がここに来たのか。もしもっと来たら自分だけではどうしようもない。むろん、ジョシュのためなら躊躇わずに戦うが自分が力尽きたらどうやってジョシュを守れる?
武器をフロントの下に用意しながらデュークは何とか冷静であろうと努めた。何度も深呼吸をし、ハンターとしての自分を取り戻そうと。
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