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だいたい人ってラグビーで知り合いますよね、とボケ役が言って、そんなことはないけどね、とツッコまれる漫才があって、2人して笑ったものだが、ふと自分達の場合を振り返ってみると、ラグビー部どころではない珍しいタイプだった。
だいたい人って飛び降り自殺しようとして知り合いますよね、というボケでは、笑ってもらえそうにない。
見るからにしょぼい中年男性すなわちオッサンであるところの私が言うのだから、自虐が深刻に過ぎる。
格安のスマートホンがぶるっと震えて、見ると由樹から「これから帰る」とメールが来ていた。
ならそろそろ、夕飯の支度をしなければならない。
私は腰を上げ、米をといで、3合炊きの炊飯器にかけた。
最近はこんな小さい炊飯器もあるのだな、と家電量販店に由樹と買い出しに行ったときに知った。
冷蔵庫や電子レンジも多くの種類があって、私には見分けがつかなかったが、一人暮らしをしていた由樹は店員の説明を聞いてすぐに理解し、どれを買うかの決断も素早かった。
白菜やしめじ、にんじん、豆腐、そして豚バラ肉を切って、鍋の素に入れる。
鍋の素にはいろんな味があり、簡単においしい鍋ができあがるので、常備している。
一緒に暮らし始めたころは野菜の切り方すらわからず、スマホで調べたり由樹に恥を忍んで尋ねたりしたものだ。
その危なっかしさを見かねてか、彼は「俺が食事当番するから、弘充さんは別のことやって」と提案してきたが、先に帰れた方が作るのが公平ではないかな、と思ったし、別れた妻に――沙代子に家事をすべてやってもらっていたことが負い目になっていて、任せる、ということに抵抗感があった。
鍋の具材が煮え、ご飯が炊きあがってからまもなく、鍵を開ける音がして由樹が帰ってきた。
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