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「君はさっき、店員さんを助けたじゃないか。あんなふうに人助けができる能力も思いやりもあるのに、なんで自分をクソだなんて言うんだ?」
「あんなの、誰だってできる」
「できないよ! できてたら、店員さん困ってたはずないじゃないか」
明らかに自分より10歳以上は若いこの青年が、理不尽に自分を否定し、死を望んだことに、私は憤っていた。
そんなふうに彼に感じさせたのであろう周囲の人間にも、そんなふうに感じる彼自身にも、腹が立った。
青年と息子を、知らず重ねていたのだろう。私のような父親失格人間でも、親心というものは残っていたようだった。
「……」
そのときの由樹の顔を、なんと言えばいいのだろう。
とても無垢で、もう暗い目はしていなかった。
なにか、眩しいものを見るような目だった。
そして、行き場所のない私達は、古いアパートで一緒に暮らすことになった。
大家には遠い親戚と言ってあるが、親戚ではないし、もちろん親子でもない。
「友人」が一番近いかと私は思っているが、初めて会ったときのあの行為を考えると、友人はそんなことをするだろうかという疑問も湧く。
それに、たまに由樹は私を抱き枕のようにして寝たがることがある。
では、恋人なのだろうか?
恋人というのは互いに愛し合っているものだけれど、私ははたして、由樹を恋愛という意味で好きなのだろうか。
男を恋愛対象だと思ったことはない。
だが、そういう意味で愛していたと思っていた妻には、「あなたは私なんかどうでもいいのよ」と非難され、息子ともども去られている。
私には、私の気持ちがわからない。
いい年をして情けないことだが、それが本音だった。
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