スロウ・ミュージックの、そのあとで。

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夜中にふと目を覚ますと、由樹の息遣いが聞こえた。 寝息とは明らかに異なっていて、荒い。 それは、私にも覚えのある息遣いであり、動きだった。 ときおり、吐息のようにかすかな声が洩れる。 呻くようでもあり、甘やかでもある低い声。 あの夜に、混乱しながら耳にしたのと同じだ。 そして、これまでの数ヶ月でも何度か聞いている。 「……っふ、ん……」 耳にも蓋があればいいのに、と思い、私は寝ているふりを続ける。 否応なしに聞こえてしまう由樹の声は、私の中をざわつかせる。 不愉快、という意味ではなくて――落ち着かないのは確かではあるが、どちらかといえば焦燥感、に近い。 「っ……、ろ、みつ、さ――」 引き絞るような由樹の小さな声が聞こえた瞬間、私はきつく目をつぶった。 心臓が、発熱時のようにどくどく脈打っているのがわかる。 由樹の下半身を覆っているのとおそらくは同じ熱さが、私の腰のあたりにも押し寄せようとしていた。 「……、っはぁ……」 由樹は一際強く息を詰め、それから大きく吐いた。 ()したのだ、とわかった。 ティッシュの箱を引き寄せ、後始末をしているらしい音が背後で聞こえる。 しばらくして、静かになった。 中途半端にくすぶる熱と、彼が切なげに名前を呟いたときの浮き足立つ感覚、そして重苦しい罪悪感が体中を巡り、がんがんと脳内を打った。 私は、彼に、我慢を強いているのだろうか。
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