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満を暗殺しに来た桜が、返り討ちにあって縛り上げられている所から、その記録は始まる。
この時の桜は、肌にぴったりと張り付いた忍び装束を着ていた。目の前には、格闘ゲームに出てきそうな程、筋骨隆々な満が居た。
「くっ、殺せ」
桜は満を睨んで言うが、満はどっしりと構えていて動かない。
「その装束、玖珂の者か、貴様」
「そうだったとしたら何だ!」
「くっくっく、実にタイミングが良い」
満は顔に壮絶な笑みを浮かべた。その笑みは、まさに悪鬼羅刹のものだった。
「それでは貴様にチャンスをやろう。もしできれば、貴様は解放される、何処へなりとも行くが良い」
「それは一体何だ……」
桜が問うと、満は地面を思い切り踏みつけた。
すると何かスイッチが作動し、ずうん、と天井から板が降ってきた。板には、学の住居と、学の顔写真が描かれていた。
「これは我が馬鹿息子だ。こいつを殺せ」
「は? 息子を殺せと言うのか?」
余りにも唐突な命令で、桜の問いは、当然であった。
「そうだ。但し、ルールを設ける。無条件で行えば、死人が出るどころでは無いからな」
「そのルールとは何だ」
「第一。襲撃は朝に一回、昼に一回、夜に一回だ。襲わない時間が有っても構わないが、これを超えてはならん。
第二。学が貴様に攻撃を当てたら、襲撃は失敗。
第三。学の家でメイドとして働け。襲撃以外では真っ当なメイドとして、健康に気を遣え。
第四。期限は二週間。
さて質問は?」
「何故、メイドなんだ。頭がおかしいんじゃないのか」
「馬鹿者! 子供の健康を気遣うのは当然だろう!」
「メイドである必要性は無いだろう!」
「それは趣味だ! 多分学も頷いてくれるだろう!」
桜はそれを聞いて押し黙った。
質問が無さそうなのを見て取って、満はにこりと笑った。先ほどの壮絶な笑みとは違った柔らかい笑みだ。
「良し、じゃあ決まりだな。学、と言う訳でこいつを送るから、頑張って生き延びてくれ。お父さん、生き延びられるって信じてるぞっ?」
ここで記録は終了する。
これを見た学が茫然とし、然る後顔を顰めたのは、言うまでもない。
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