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さて、朝の襲撃を回避した学は、桜が用意した朝ご飯を食べていた。どれも丁寧に作られていて、シンプルなのにとても美味しく、学はここに居るメイドが何者であるかを疑わざるを得なかった。
実際、襲撃を行っていない時の桜は、素晴らしいメイドだった。料理も掃除も出来て、どれも完璧だった。襲撃で色々な物が壊れるが、それも時間が経てばいつの間にか直っている。
「おーい桜」
「はい、こちらに」
学が呼ぶと、天井の板を回転させ、くるりと桜が現れた。そこだけ重力が反転したかのように、桜は天井に立っていた。
「お前に質問しても良いか」
「何なりと。私に答えられる事なら、全てお答えします」
答えられる事なら全て、と聞いて、男子高校生の学の頭は、一瞬ピンク色に染まった。
しかし頭を振って、ピンク色を追いだした彼は、桜をじっと見た。
「お前ってさ、くノ一だけど、何でこんな事できるの?」
「こんな事とは? 天井に立つこの術でございますか」
「あー……それも気になるけど、家事全般だよ。くノ一に必要あるの?」
「無いと言えば無いですし、有ると言えば有ります。それに答えるなら、玖珂についてお話ししなくてはいけませんね」
桜はくるりと飛び、天井から床に音も無く降り立った。
「玖珂とは忍者の一派でございますが、その裏には莫大な金と利権が絡んでおります。他の忍者は割合血統を重んじますが、玖珂は血統を無視し、教育と改造を施すことで忍者を養成します。いわば強化人間製造所ですね」
「お前も、そうやって忍者になったのか?」
学がそう聞くと、桜は袖をまくって腕を見せた。そこには無数の注射痕が有った。
「その通り。私は、学様のように選ばれた家系には生まれませんでしたので、改造と、教育たっぷりと受けました。まあはっきり言ってクソ……おっと口が滑りました、この世の掃き溜め、ゴミの集積場のような場所でした」
「言い直した後の方が酷くなってるぞ」
「これは失礼。とまあ、玖珂は酷い場所でした。しかし、そこでの教育はかなり多岐に及んでいて、掃除洗濯料理から、数学国語英語理科社会、帝王学に経済学、挙句の果てにはハニートラップや洗脳技術まで」
「ヤベエな」
学はそう言ったものの、桜の境遇が全然想像できなかった。しかし、苦労をしたと言う事は間違いないらしい。
それで、学はこういった。
「今日暇だろ。映画見に行こうぜ」
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