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しばらくするといつも通り、玄関の開く音と、私の居る遺体保存装置に近づいてくる足音が聞こえてくる。そして「ただいま」と家主が言った後だった。
遺体保存装置のガラスカバーが開けられた。私はとうとうバレたかと、ぎょっとした。
そのあと、花の香りがふわりと漂ってきてどうやら私の胸の上に花束が置かれたようだ。まあそれくらいなら、花を添えるなんてよくある話だし、とほっと胸をなでおろしたのもつかの間。
鼻がむずむずしてきた。
耐えようと思ったが無理だった。
「へっっっくしゅん!!」
私は盛大にくしゃみをした。
「あ」
「あ」
おもわず声に出さなければまだリカバリーができたかもしれない。いやどう考えても無理だった。
私はばっちり家主と目が合ってしまった。家主は目を見開いて固まっている。
「え、っと…」
ああ、まずい。とてもまずい。突き飛ばして咄嗟に逃げるには機を失ってしまった。相手もどうしようか迷っている。お互い視線を外せないのに何の言葉も出てこない。
空気が気まずい。なにか、何か話さなくては!
「あの、おばあさん?」
「あ、ああ。はい、なんでしょう?」
家主の老婆もようやく頭が働き始めたらしい。
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