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「いや、なんでしょうではなく、私、死体じゃなく生きているんですけど、あの…」
怒り出すなり、警察を呼ぼうとしてくれたり、逃げ出したりしてくれないとこちらもどうしていいかわからない。
「ああ、そうね…そうね、まず…お茶でも飲みましょう?」
逃げ出せないのは私の方らしい。私は老婆の言うままにお茶を淹れるのを手伝い、よくわからないまま高価そうな椅子に腰かけた。
女はおいしそうな紅茶を出されたものの、とても喉を通る気がしなかった。
目の前の老婆は気難しそうに紅茶を啜っているが、この老婆が今から警察を呼べば女は一発でお縄である。気が気でないと女は目線をあちこちに動かし落ち着かない。
「あの」
老婆の重い沈黙に耐え切れず女は口を開いた。
「怒ってますよね…?勝手に、遺体保存装置を使ってしまって」
上目遣いに縮こまる女の姿が、寝ている時の美しさとはあまりにかけ離れているのがおかしくて、この家の主である老婆は朗らかに笑い出した。
「そんなことないわ。あなた、あの棺桶がどうして空なのかご存知?」
「え、いえ、知らないですけど…」
「あれ、私用なのよ。私が入るために前もって用意しておいたの」
口を開けて驚く女の視線を受け流しながら老婆は紅茶を啜る。そして自分の事を話し始めた。
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