死体との同居

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「私、もうあと数か月も生きられないの。それなのに『まだ大丈夫』としか言わない家族と友達が嫌で、もう少しもしないうちに『もう駄目』になっちゃうのがわかってるのに誰も何もしないから、もう一人でいいわって家を飛び出して、今は一人で暮らしているの。それで一人で死んだ後もちゃんとできるようにあれを置いておいたのだけれど、まさか先に使われるとは思ってなかったわ」  女はあんぐりと口を開けたままだ。女の世界では死は突発的であり、受け入れるも何もない死んだら死ぬだけの話だ。死んだ後のことなど考える余裕も意味も無かった。この老婆が言っていることが先を見越しすぎていて今しか生きれない女には理解できない。 「遺体保存装置にあなたが寝転がってた時は驚いたけど、あなたを見た時『ああ、私もこうなるんだ。こうなるなら悪くないな』と思えるようになったわ。寂しい生活にも張りができたしあなたには感謝しているのよ?」 「怒ってはいないんですか?」  女の質問に老婆は首を振った。 「怒るなんてしないわ。貴方がよだれ垂らしてグーグー寝てた時は笑っちゃったけど」  老婆が指摘すると女は顔を赤くして口元を隠す。髪も服もぼさぼさなのに、そんな乙女のような羞恥心は残っていたようだ。 「貴方みたいに幸せそうに棺桶に入れたら、ってずっと思ってたのよ。これで後顧の憂いも無くなったわ。ありがとう」  お礼を言われても女は困惑するしかなかった。 「自分が死んだ後の事なんて、関係ないじゃないですか。なんでそんなに気にするんですか?」     
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