死体との同居

9/12

37人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「死んだ後って私、何もできないのよ?今、こうしてお話しできているのに、明日には私はベッドから起き上がることも出来なくなっているかもしれない。そう思うと怖くて仕方がないの。明日自分がふつりと終わって、終わるってどういうことかわからないから怖いのよ。少しでもその恐怖に対処しておきたいの。目を逸らせば逸らすほど、不安ばっかり募るのはもう御免だわ」  老婆はゆっくり、しっかりと女の目を見ながら優しく話した。女はまだ若く死を意識したことはなかったが、じりじりと不意にやってくる死の恐怖は女にも何となく想像できた。自分はただ死体のフリをしていただけなのに、その恐怖を和らげることができたというのか。 「あの、その、棺桶、中古にしてしまって、すみません。」 「中古?」  老女はあっはっはっはと軽快に笑い始める。腹を抱え、目に涙を浮かべ、肩の震えが止まらない。彼女が心から笑っているのがわかるほど目尻の皺は深く刻まれていた。 「そ、そうね。確かに中古の棺桶になってしまったわね。でも、先に使って『死んでいた』あなたが生き返ったのだからむしろ縁起ものじゃない?」  そんな冗談を言って老婆はウィンクをする。もう顔の皺はくっきりとわかるのに、その顔色は明るくくりくりとした目が可愛らしい。  女は思った。 (私も、こんな楽しいおばあちゃんになりたいなあ)     
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加