死体との同居

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死体との同居

 私は死体と同居している。  誤解しないでほしいが、違法性は全くない。先進国である我が国の技術は、死体を全く損壊させることなく死んだ直後の美しいまま維持することが可能だ。  また、維持管理の届けを出し政府から許可を得れば、同居するのは全く持って合法である。今では死亡した家族の遺体を眠るような姿で家に置く家庭は特別では無い。  仕事が終わり、真っ暗な家の扉を開け、部屋の明かりをつけ、リビングに歩を進めるとそこにはガラスケースの中で寝ているようにしか見えない若い女性の姿がある。うっすらと微笑んでいる彼女はいつ見ても美しい。 「ただいま」  返事など来ないことは分かっているが、それでも私は声をかける相手がそこにいることに感謝の気持ちが湧いてくる。ただこの時だけが楽しい生活をしてどれくらい経っただろうか。仕事をして、帰ってきて彼女にただいまと言って、食事をして、シャワーを浴びて、寝るだけの生活だ。  次に私がこれに入るときまでこの生活は続くだろう。  そのことに薄ら寒さを感じることもある。しかし、私は今更新しく親しい人間関係を作ろうと思えるほど若々しい冒険心は無くなってしまった。  私は彼女の顔を眺め、名残惜しさを感じながら棺桶から離れた。    深夜、棺桶のある家の家主が深い眠りについた頃。  棺桶の中の女はぱちりと目を開いた。
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