同居生活スタート

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 明らかに現世の人ではないですよね? という見た目だが、もしかしたらただ単に記憶喪失の、ちょっと現実離れした風貌の迷子という可能性もまだ捨て切れない。ただ、そんな人がなぜ人の家のトイレに全裸でいるのかは皆目見当もつきませんが。 「え? 結局お兄さんはなんなの? どうしてここにいるかもわからないし、自分が誰かもわからないんだよね? なのになんでそんなのほほんとしてるの? え、俺がおかしいの?」 「あはは。そんなに一気に聞かれても答えられないよ」 「いや別に質問してねぇから!」  どうしよう、このお兄さんと話してると疲れる…。  なんだかどっと疲れが押し寄せてきて、いっそもう眠りたくなってきた。このまま放置して寝てしまっても大丈夫なんじゃね? もしかしたら自分はすでに眠っていて、実はこれはただの夢かもしれない。あ、そうだ、そうかも。そうだと言って! 「…あ、僕、明日も早いんで寝ますね」  これは夢だ、と結論づけて早速眠りにつくことにした。夢見てるのに今から寝るっておかしくね? という疑問は考えないことにする。  風呂に入る前に換気のため開けておいた窓を閉め、いそいそと布団に潜り込もうとしてふとお兄さんを見ると、きょとんという顔をしておとなしく座布団に座り続けていた。あいにくこの家には来客用の布団はない。座布団と毛布なら何枚かあるので、適当にそれらを押し入れから出してばさりと床に置いた。 「お兄さんは、これで寝てください」  ちゃぶ台をどかしてスペースを作り、一枚ずつ座布団を敷いていく。お兄さんはそれを不思議そうに眺めている。多少寝にくいかもしれないが、きっと朝にはいなくなっているはずだから大丈夫だろう。  イケメンを座布団に寝かせるという、イケメン大好きな職場の女子社員にバレたら抹殺ものの罪を犯そうとしているというのに、心は不思議と凪いでいた。だってこれは夢だもの。一日の締めくくりが嬉しくも楽しくもない妄想だったが、目が覚めればきっといつもの日常に戻っているはずだ。 「じゃあ、おやすみなさい」  お兄さんの返事は待たずに電気を消した。ここは自分の部屋だ。突如現れたお客人に気を遣って寝不足にでもなったら困る。明日も明日とて社畜は働かなければならないのだから。  だから、お兄さんがこの後不審な行動に出るなんて、考えもしなかった。
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