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「ごめんね。いつも格安で切ってもらって」 「何言ってんの。見習いの頃、あんだけ下手だったのに髪切らせてくれたの桜だけだもん。おかげで成長しました」 「今じゃカリスマ美容師だもんね」 「カリスマってなんか古くない?ついでに言うと、失恋で髪を切るのも。今の子たちはその文化すら知らないみたいだよ」 そう言って、杏介が髪を触ると、桜はため息をついた。 「男を見る目は成長しないのに、歳だけは確実にとってる自分が情けない」 「桜はずっと可愛いから実感わかないけどね」 「そう言ってくれるのは杏介だけだよ」 杏介は幼稚園の頃から変わっていない。 おままごとをやればいつも桜の子供役やお父さん役を買って出ては 「ママ可愛い」 「ママお料理上手」 とことあるごとに言ってくれる最高の家族役だった。 「杏介~いい子いい子」 当時は同じ歳でありながら、どこか幼さがある杏介を可愛いと感じよく頭を撫でていた桜だが、今ではグッと背伸びをしても頭に手が届くかどうかぎりぎりのところだ。 大学生になって東京で一人暮らしを始めてからは、心細くなるといつも同時期に一人暮らしを始めた杏介を呼び出していた。 「桜~、大丈夫?」 それが杏介の口癖だった。
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