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「今さら気づいたの?くるみだってあっちから告白してきたんだよ。俺の良さに気づいてないのは桜くらいだぞ」
「うん。全然気づいてなかった」
真顔で言う桜の髪をバサバサと触り
「おいっ!」
と杏介は笑った。
「はい、あっという間にボブになりました。一回髪洗おうか」
おおざっぱに切っただけだというのに、桜は既にその髪型が馴染んでいる気がした。
「やっぱり、杏介センスあるよね。私に似合う髪型分かってる」
「いや、分かるのは桜のだけだよ」
「えっ?」
言葉に詰まる桜を見て、杏介は不思議そうに言葉を続けた。
「ほらっ、一番長く切ってるから」
「あーそっか!私ラッキーだ。こんなに自分を分かってくれる美容師さんがいるなんて」
「でしょ。だから他の美容師に浮気しないでね?」
「浮気は今禁句!」
「……浮気されたのか。今度会ったら一発殴ってやるよ」
「杏介はそういうことしないでしょ」
「えーどうかな。俺だって大事な人傷つけられた時はそれくらいするんだよ」
何だか今日の杏介はいつもと違う、と桜は感じていた。
自分が失恋で傷ついているせいだろうか。
心が弱くなっている時は、優しい言葉の一つ一つに、意味を求めてしまう。
きっと意味なんてないのに。
それこそ無意味な妄想だ。
「桜?大丈夫?」
「うん。ごめん、何でもない」
何か言いたげな杏介は、結局
「じゃあ、シャンプーしようか」
と笑顔を返した。
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