15/16
前へ
/166ページ
次へ
「今さら気づいたの?くるみだってあっちから告白してきたんだよ。俺の良さに気づいてないのは桜くらいだぞ」 「うん。全然気づいてなかった」 真顔で言う桜の髪をバサバサと触り 「おいっ!」 と杏介は笑った。 「はい、あっという間にボブになりました。一回髪洗おうか」 おおざっぱに切っただけだというのに、桜は既にその髪型が馴染んでいる気がした。 「やっぱり、杏介センスあるよね。私に似合う髪型分かってる」 「いや、分かるのは桜のだけだよ」 「えっ?」 言葉に詰まる桜を見て、杏介は不思議そうに言葉を続けた。 「ほらっ、一番長く切ってるから」 「あーそっか!私ラッキーだ。こんなに自分を分かってくれる美容師さんがいるなんて」 「でしょ。だから他の美容師に浮気しないでね?」 「浮気は今禁句!」 「……浮気されたのか。今度会ったら一発殴ってやるよ」 「杏介はそういうことしないでしょ」 「えーどうかな。俺だって大事な人傷つけられた時はそれくらいするんだよ」 何だか今日の杏介はいつもと違う、と桜は感じていた。 自分が失恋で傷ついているせいだろうか。 心が弱くなっている時は、優しい言葉の一つ一つに、意味を求めてしまう。 きっと意味なんてないのに。 それこそ無意味な妄想だ。 「桜?大丈夫?」 「うん。ごめん、何でもない」 何か言いたげな杏介は、結局 「じゃあ、シャンプーしようか」 と笑顔を返した。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加