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髪には記憶が宿る。
だから髪を切るときは記憶を断ち切る時だ。
昔、誰かにそんな話を聞いた。
軽くなった髪を触り
「すっきりした!ありがとうございました」
と頭を下げると、杏介は
「いいえ」
と桜の頭を撫でた。
「今度は誰かのためにおしゃれしたい時においで」
「うん!」
「じゃあ気を付けて帰るんだよ……ってあれ、そういえば桜、家どうしてるの?」
「あー、友達の家に泊まったり、ホテル泊まったり……」
「本当に?桜のことだから漫喫に暮らしたりしてんじゃないの?大丈夫?」
「んなわけないじゃん!」
相変わらず鋭い、という勇気はなく桜は必死で話をはぐらかした。
「なら良いけど……でも困ったら家おいで。いつでも大歓迎だから」
「杏介、それはくるみちゃんに失礼だよ。大丈夫だから、心配しないで。じゃあまたね」
「うん。何かあったら連絡してよ?」
いつも通り杏介はずっと桜の後ろ姿を見つめていた。
路地を曲がる時、振り返ると、必ず笑顔で手を振り返してくれることを桜は知っていた。
その瞬間、寂しい心が少しだけ軽くなる。
辛い時いつも、杏介は心を軽くしてくれる友人だ。
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