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「髪……切った?」
「おっ、よく気づいたね」
「そんだけばっさりいってれば誰だって気づくだろ」
機嫌よく鼻歌を歌っている彼女を見て、夏輝は昨夜のことを思い出していた。叔父の店に寄った帰り成り行きで家に連れてきた桜というこの女は、遠慮もなく、まるで数年前からこの家に暮らしているかのような馴染み方をしている。
「その金を少しでも貯金に回して、すぐにでも出て行こうっていう気持ちはないのか?」
「美容院はずっと前に予約してたの!それに友達が安く切ってくれるし」
「男か?」
「えっ?うん、よく分かったね」
「やっぱりな。あんたみたいなろくでもない男に引っかかる女って、男の連絡先の”数”だけは尊敬に値するレベルだったりするよな。質はともかく」
「私はともかく杏介をバカにするようなこと言わないで!」
そう言って桜が思いっきり投げたクッションは、見事、グラスを持つ夏輝の手にあたった。
手元の水が床に零れ落ちたのを見て、桜は慌てて謝罪の言葉を述べた。
「ごめん!濡れた?」
「水で良かったな。このクッションカバー1万円、グラスは2万」
「えっ!?そんな高いの?」
「まぁ、それより高いもの、傷つけるところだったけどな」
「えっ?」
「俺の手」
真顔でそう言った夏輝の目をじっと見つめ桜は
「そんなこと言って恥ずかしくならない?」
と冷静な声で言った。
「あんたがバカで良かったよ」
「はぁ!?」
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