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「桜ちゃん、ここ居酒屋じゃないんだけどな。飲みすぎだよ。はい、水」 そうやって困ったような笑顔を向ける冬馬を桜はジロリのにらみつけた。 「冬馬さんまでそんな冷たいこと言わないでくださいよ」 「困ったなぁ……あっ、ねぇ3Bって何?」 「あっ話そらしたー」 怒ったように言っても、動じる様子もなく笑顔を向ける冬馬を見て、桜は次の酒を手に入れることを諦めた。 「冬馬さん知らないんですか?3Bっていうのは、美容師、バンドマン、バーテンダーのことです。女が付き合っちゃいけない職業。女性との接点が多くてモテるけど、収入が不安定だったり、時間が合わなかったり。不安が多いってことです」 「えー僕も入ってるんだ。心外だな」 と言いつつも相変わらず余裕の表情の冬馬を見て、桜は、”そういうところが……”と言いかけたが、言葉を飲み込んだ。 「冬馬さんは浮気とかしなさそうじゃないですか」 「浮気はしないけどね。まぁ、でも前の奥さんにとってダメな男だったことは確かだろうね」 「えっ?冬馬さんってバツイチなんですか!?」 確かに冬馬の妙な落ち着きを見ると、結婚の一度や二度して悟りを開いたのだと言われてもおかしくはないが、いざ明確に言葉にされると意外と驚くものだ。 「そうだよ。俺も42だしね。色々経験してるんだよ」 「42には見えないですけどね。冬馬さんイケメンだし、まだまだいけますよ」 「そりゃどうも」 桜の言葉はお世辞でも何でもなかったが、さして相手にもしていないという雰囲気の冬馬に大人の余裕を感じた。 この小さなバーのオーナーの冬馬とはかれこれ5年の付き合いになる。 元々は瑛子が見つけた店だが、冬馬の人柄と出すお酒の味に惹かれた桜もすっかり常連になり、今では桜の方が店によく通っているくらいだ。
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