39℃に揺蕩う心

そういえばこれは最近知った話なのだが、水の中よりもお湯の中の方が潜りづらいらしい。露天風呂の仕組みの反対で、人間は顔の温度が上がることに耐えられないのだそうだ。私がお風呂の中の練習で一度も成功しなかったのに、プールのテストで成功したのはこのせいかもしれない。
－－そこで私は、お風呂での練習を私に勧めたのは母だったことに気づく。そうか。私は、母の優しさにずっと助けられてきていたのか。

「ちょっとりせ？ なにお風呂の前突っ立ってんの、早くしなさい」
母の言葉に、私は回想を止める。ふと開いた玄関を見ると、もうトラックにほとんどの荷物が積み終わっていた。
「あんたの持ってるそのダンボールで最後だから」
「うん、すぐ運ぶ！」
私は慌てて玄関まで走った。

「じゃあ、頑張ってね」
「うん、お母さんも元気でね。」
そう言ってトラックに乗ろうとドアに掛けた手を、ふと止める。