夏の始まりの幻想

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 そんなわけで、俺は追試に合格するまで、朝早くから学校に通わなくてはならなくなったのである。  終業式後の土日と「海の日」は追試対策で潰れ、俺は追試第1日目を迎えることとなった。  たった1人で教室に残されて答案に向かった50分間の孤独。  現在なんたら進行形だのカテイ法だの、わけの分からない専門用語を含んだ「あれを書け」「これをいくつ選べ」という質問に何とか答え切った俺は、担当の先生が職員室で採点を終えるのを待っていた。  終業式の午後から土日をまたいでの2日半は、苦しい戦いの連続だった。  自慢じゃないが、そもそも俺が自主的に勉強するわけがない。  俺の追試をかぎつけたお節介焼きが、3日連続の強制補習をさせたのである。  その名を、大槻(おおつき)梢(こずえ)という。  俺の幼馴染である。幼稚園の頃からの腐れ縁で、小学校から高校までずっと一緒に来た。  つらつら思い出してみると、何をやらせても梢よりもワンテンポ遅い俺は、いつも片手を掴まれて引きずりまわされていたような気がする。  自分の名誉のために言っておくが、俺がトロい訳ではない。梢が常に一歩先を歩いているのである。 (梢からすると『そんなの言い訳』らしいが……)     
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