夏の始まりの幻想

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 勉強もスポーツも、人一倍よく出来る。高校での成績は、常にトップ集団を走り、部活も剣道部で、個人戦では県のベスト8くらいにはいつも入賞している。 「何しに来たんだよ」  俺は追試の時間だけがぽつねんと書かれた黒板を真っ直ぐ向き直り、頬杖をついた。  終業式の日の大掃除で、ピカピカに磨き上げられた黒板は、近づけば自分の顔が見えるくらいである。  俺が赤点を取らなければ、2学期の始業式まで、無人の教室を鏡のように映し出していたはずだ。  今、そこにいるのは俺と梢の2人きりだ。  夏の日差しが降り注ぐ窓の外からは、運動系部活動の掛け声が聞こえてくる。  だが、梢は、学校に来る用事などないはずである。  今年の県大会は、他校の1年生からして強豪が多く、梢は最後の夏に華を飾ることができなかった。当然、部活も引退である。  だが、梢は俺の背中にいやみったらしい声を、小柄なくせに上から投げつけてきた。 「受験勉強。冷房の利いた図書館で」  梢は俺の机の前に回って屈みこんだ。至近距離で見つめられて、俺は思わず身体を引いた。  ボブカットの髪に、つぶらな瞳。  幼い顔だちは、普段話してても結構、怒ったり笑ったりがはっきりしている。  今は……不機嫌そうである。 「何すんだよ」 「英語のノート返して」     
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