10人が本棚に入れています
本棚に追加
私は抱き締めて、その柔らかいお腹に顔を擦りつけていた。あーなんか、いい香りがするぅ、甘い、花の香りみたいな……。
「あの、嬉しいんだけどさ。恥ずかしくもあるんだよね……」
「んー?」
私が上の空で答えると、その子は私の膝に乗ったまま、ぼんっと人の姿に戻る。
「きゃあ!」
「うんうん、僕はこっちがいい」
そう言って抱き締められた、男性の胸に顔を押し付けられて。
「きゃあ、駄目よ、そんなの!!! 猫じゃなきゃ!」
「あのさ、君はこの現実を受け入れているのかい? いないのかい?」
言われて、彼の腕の中で顔を上げた、緑色の人懐っこい瞳とかち合う。
「……」
──あ。
少し考える時間は必要で、そして思い当たる。
人になったり、猫になったりするのは現実としてあるの?
それって妖怪とかの類では……ん、でも目の前の彼は、とてもいい人そう……。
なんてったって、美形だ。
途端に恥ずかしくなる、こんな男性に抱き締められている現実に。
「ね、猫になって……!」
「駄目だね」
彼の緑色の瞳が、いたずらっ子のようにきゅうっと細まった。
「君にお礼をしたい、それにはこの姿の方が都合がいい」
「え、でも……でも……!」
私が拾ったのは猫なのに!
私は猫が飼いたいの!
イケメン男子は飼えないよ!?
終
最初のコメントを投稿しよう!