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女と少年
「こんばんは。今日の夜はとても暗いね」
暗闇からいきなり声をかけられ、思わずびくりと身をすくませた女は、しかし声の主が年端もいかない少年であることを知り、
「ああ……そうねぇ」
と、ぎこちないながらも笑みを浮かべ、そう返した。
夜。厚い雲がわずかな光さえも遮り、灯りは点々と設置されている篝火と、女の持つ提灯の光くらいのもの。
女が前にかざす提灯と同じ高さに少年の顔がある。身なりは粗末ながらも、それはなかなかの美童であった。
女は彼に視線を合わせ、
「こんな夜中に、灯りも持たずにどうしたんだい?親とはぐれたのかい?」
そう話しかける。すると少年はにこりと微笑み、
「うん。まあ、そんなところ。ねぇ、少しの間でいいから、あなたと一緒に歩いてもいい?」
少年の、何だかねっとりと絡みつくような声色が気になったが、それ以外は特に警戒すべき要素の見つからない相手である。女は少しの間迷うようなそぶりを見せたが、最終的には「まぁ、いいよ」と受け入れた。
少年は女の少し後ろを付いて歩く。そして女に、
「あなたはこんな夜遅くに、どこに行っていたの?」
と、無邪気に問いかけた。
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