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 「洗川さん、ちょっといい? 」  声をかけたのは、荒川より数ヶ月先に入社した岸原恵那だ。  清美は会計を終えたお客を店の入り口から見送ったところである。  「はい」  岸原のところへ向かう。岸原の隣にはアシスタントの向井比奈がいる。今日、向井は主にカウンター業務の担当である。会計その他、電話や来店をしたお客の対応にあたる。担当の指名がある場合は、その担当のもとへ確認をしに行く。指名された担当が他のお客の対応をしている場合は待ってもらうか、他の者でさせてもらうか客と相談をする。 「先客の島田様を受け持つことになったんだけど、そのあと吉井様がすぐにみえて。吉井様は絶対私でないといけないの。なので島田様をお願いできないかな」  岸原が清美にそう頼んだ。  「わかりました。島田様は私が担当いたします」  向井は受付の方へ戻り、待合のソファーにかけている吉井という女に話しかた。満足のいく返事が得られたことから笑みが見られる。こちらの方に顔をやり岸原と目が合うと笑みを作った。  「岸原さん、オーダーは聞かれていますか? 」  清美が尋ねた。  「ショートボブだったかな」  岸原はそう言うと待合にいる吉井の方へ向かった。
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