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 桐也は振り返り、店の入り口に目をやる。  少しばかりの間が空いたが、  「いらっしゃいませ。どうぞ」  と言った。  清美は怪訝な表情をみせる。清美は自分が先に「いらっしゃいませ」と言ってしまったものの、見るからに怪しすぎる者を霧也が招き入れてしまったからだ。  「お掛け下さい」  桐也はバーバーチェアに案内をした。  黒ずくめの者は腰をかけた。  「今日はどうなさいますか? 」  普段のお客と同じように注文を聞いた。  「カットで」  野太い声がした。しかし、二人は少し声に違和感を感じた。体の何処かに忍ばせてあるのだろうか、スピーカー越しのような声である。男であることは間違いなさそうだ。  「お好みのスタイルはありますか?」  男に聞いた。返事があるまでラジオから司会者のしゃべり声だけ店内に響く。  「お前の好きなように切れ」  男が言った。  「お任せでよろしいですね? 」  桐也がそう確認をすると、少し間が空いて男が言った。  「単に好きなように切れというわけではない。俺に似合うようにだ。即ち俺が納得いくものでなければ駄目だ」  「かしこまりました」  お任せでということはよくある。しかし今回は難しい注文だなと思った。普通であれば、流行りや客の雰囲気、顔の輪郭やパーツ、服の好みなども含めて考える。今わかる情報と言えば、ガタイが良く野太い声。あとは全身黒ずくめということだけしかわからない。  桐也は壁掛けの鏡に映る男を眺めて考えた。
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