感覚の消失

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かつて在ったはずの感情の喪失。大人になった証拠と母は言うけれど、私はとても寂しいことだと思う。いろんなものへの関心が薄れ、不感症性ばかりが強くなる。 子どもたちが特急列車から見える景色をきらきらした目で眺めている。飽きることなく田んぼや森を見ている。看板のひらがなをひとつひとつ声に出して読んでいる。彼らはこの世のものすべてが新鮮で、意味のあるものに見えるのだ。かつての私のように・・ 私もその輝いた目を取り戻したい。夕やけをみてきれいだと思いたい。寒さや暑さを厭わず景色を眺めたい。もう、無理なのだろうか。新鮮な、尊い感情をもてる期間は過ぎてしまって、それを取り戻すことは不可能なのだろうか。 もちろん、花や夕やけをみて「きれい」と言ってはみるのだが、昔ほどの新鮮で、尊い感情は湧いてこない。それを取り戻そうと必死に「きれい」と言葉を発しているのだ。上っ面の言葉で誤魔化している。そんな自分に絶望したりする。 誰か私の在ったはずの尊く清らかな感情を取り戻してはくれないだろうか。愛する人が居れば少しは戻ってくるのだろうか。わからない。今のままでは到底わからない。私はこの悲しみを胸に日々生きていくのか。もうそんな生活はしたくないのに。車窓の景色を飽きることなくみれる日々を、お願いだから返してください。
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