向かうべき未来

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何事もなく呼名が済んで、僕の名前が呼ばれる。 保護者席の方で少しだけざわめきが起きた。 グランドピアノに向かう際、来賓席に座っている男性と目が合った。貫禄のある雰囲気で、自慢げな笑顔を浮かべている。蜷音の校長先生を見るのは、推薦入試の最終面接以来だった。 楽譜を開いて、譜面台に立てかける。あんまり胸を張って言いたくはないけど、緊張はしなかった。 「それでは、3年3組の大和 智樹くんのピアノ演奏です」 拍手の音が聞こえた。 来賓席の反対側、職員席には教頭が座っている。目が合うと「よろしく」とでも言いたげに深く頷いた。僕は気づかないフリをする。 これを弾けば、僕の中学校生活が終わりを告げる。 卒業式が終わる。やっと、この息苦しさから開放される。 嬉しいはずなのに。楽しいはずなのに。 心臓のど真ん中がぽっかりと抜け落ちてしまったような。そんな感覚が離れない。 モヤモヤを振り払うようにして、僕は鍵盤に手を添えた。 緩やかな旋律を奏でる。 胸の穴は、きっといつまでも埋まりそうにない。
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