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演奏は折り返し地点を回った。特に楽しくもなければ、高揚もしない。楽譜に示された音符を、僕が淡々となぞっているだけ。
ただの作業。これはからっぽのピアノだ。
まるで僕みたいじゃないか。
思考の片隅で、そんなことを考えた。
もう少しで、面白くも悲しくもなかった中学校生活は終わる。こんなにもあっけないとは思いもしなかった。笑えてしまうほどあっけなくて不完全なものを必死で追いかけている人たちを、初めて羨ましく思った。
僕はどうしてそれができなかったんだろう。
自暴自棄になってきたとき、ピンク色の影が視界の隅に映った。
目を擦ろうとしたけれど、演奏の手を止めるわけにもいかず、何が起きたのかわからなかった。
桃色の影の数が段々と多くなる。
頭上からひらひらと降ってくるそれが、譜面台に乗った。
桜の花弁だった。
講堂の天窓が開け放されているらしく、そこから風と一緒に桜の花びらが吹き込んでいるらしい。
まるで一筋の光が頭のど真ん中に差し込むようだった。
そして僕は唐突に気づいてしまう。
僕は、傷つくのが怖かったんだ。
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