沈黙の秒数

4/5
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
何もかもを投げ出したくなるような強い衝動にかられる。職員室を出て、誰も居なくなった廊下を通り抜ける。 下校時間はとっくの前に過ぎていた。 がらんと静まり返った教室の、窓際の机に置いてある僕の鞄に手をかける。 楽譜を仕舞おうとしてファスナーを開くと、グシャリという嫌な音がした。ファスナーに紙が挟まっている。 「なんだよ……?」 どうやら美術で使うために家から引っ張り出してきた、スケッチブックに挟まっていたものが、鞄の中でばらけていたらしい。面倒くささに押し潰されそうになったところで、ふと気がついた。 それは五線紙だった。茶色く色褪せた紙の上に、線が並んでいる。均等な線の上に、おたまじゃくしの出来損ないのような音符が浮いていた。 この五線紙よりもずっと色褪せた思い出が、頭の中を駆け巡った。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!