からっぽの両手

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からっぽの両手

音羽がいなくなってから、僕は何を得ることができたんだろう。 音楽を志す人なら誰もが憧れる、蜷音への推薦合格? 壁を埋め尽くすほどの数になった、コンクールの表彰状? 聞き飽きるほどもらった、祝福の言葉? 違う。 答えは何も。僕は何も得られてなんかいない。 あの夏と同じじゃないか。 僕はなに一つ、本当に欲しいものを掴むことはできなかった。 「どんどん遠い人になっちゃうね」 羨望を持って向けられたはずの音羽の言葉だけが、やけに耳について離れない。
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