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向かうべき未来
卒業式、当日。
春といえど、朝の風は研ぎ澄まされていて冷たい。そんな風が時折吹きつける講堂裏は、式典入場前の生徒の緊張感で満ちていた。
「もう泣きそう」「転んだりしないかな」だなんて、半泣きで回りの友達と肩を寄せ合っている女子がいる。
柄にもなくきちんとネクタイを締めて、大人しく隊列を保っている男子がいる。
それなりにざわついているけれど、僕に話しかけてくる友だちはいない。
僕は手にした楽譜を開いて、もう覚えたはずのそれに何度も何度も目線を滑らせた。
入場です、という先生の声が聞こえた。続いて息を飲む音も聞こえる。
滅多に開かれるところを見たことがない鉄製のドアに視界が遮られる直前、僕より前に並んでいた音羽と目があった。
音羽はとびっきり楽しそうに微笑んで、それからドアの向こうへと消えていった。
それが僕に向けられたものなのか、僕の後ろに並ぶ音羽の彼氏に向けられた笑顔なのかは、判別できなかった。
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