虹色の予感

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虹色の予感

中学校で、プール学習が終わってすぐの、国語の時間。 教室に吹き込んでくる涼しい風と、漂う気だるさが僕は大好きだった。 そして彼女から、こんな言葉を聞いたのも国語の時間だった。 「あのね、あたし、付き合うことになったんだ。トモくんには特別に教えてあげるね!」 急に大人びて見えた彼女のその言葉に、僕はなんて返したかさっぱり覚えていない。「ああ」だとか「そうなんだ」とか、無難な返事をこぼすように呟いたのだとは思う。 満面の笑みを浮かべる彼女を見ると、それから何も言えなくなった。何も考えられなくなった。 思わず眉を顰めてしまう強い日差しの中、行き先もなく、見知った街中を自転車駆け抜けた。アスファルトが照り返す太陽光が痛いほどに眩しい。 それでも、ペダルを漕ぎ続ける。 随分長い間走ったように思えたけれど、所詮は小学5年生の僕にとっての感覚だったから、もしかしたら大した距離ではないかもしれない。 額から流れ落ちた汗が目に染みた頃、僕はやっとペダルから足を離して、ふらふらと自転車を降りた。 暑さで目の前がぼんやりと歪む。 教科書に載っていた、異国に浮かぶ蜃気楼のようだと思った。 聞き飽きた蝉の声は、まだ止む気配もない。 公園の時計はちょうど夕方17時を指していた。 無我夢中で走り続けたせいで、いつの間にか喉がカラカラに乾いていることに気づく。 疲労でブルブル震える足を少し引きずるようにして、自動販売機でサイダーを買った。一気に飲み干す。喉を滑り落ちていく炭酸が弾ける。文句なしに美味しかった。
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