『クラマト』

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そっと壁から離れる拓斗。 「おいおいおい!」 顔に手を添え小声で話す拓斗は完全に面白がってる。 熱い顔で濡れたノートを拭く俺。 「ブス!どんなブスか見に行こうぜ!」 「やめろよ、バカ。」 「にしてもすげえ告白聞いたな!」 隣の個室から携帯電話が鳴る音。 『ゆうちゃん、うん、そう。浅野君は今帰ったよ。』 面白がって拓斗がまた壁に張り付く。 『うん…断ったよ。うん、うん…』 「やめろよ拓斗。」 口に人差し指を添えて満面の笑みの拓斗。 『でもね…私はケイが好きなの。え?…うん、わかってるよ。でもいいの。』 まだその告白は続くのかと思うと耐えられず立ち上がる。 「待ってケイ!あと少しだけ!」 『…ケイが本当はどんな人かもわかんないけど、それでも…好きなの。でもね、もしかしたら運命的に出会ったりするかもしれないじゃん!同じ東京に住んでるんだし、いつか…』 うんうん頷く拓斗。 『いいの!私が好きなんだから…ゲホッ、ちょ、ごめん。ゲホゲホ…』 咳き込む女。 壁から離れてニヤニヤする拓斗。 「帰るぞ。」 「運命!持ってこーぜ!」 「うるせえ!」 辱めにあってる気分が堪らなくてノートを丸めた。 『ゴホッ、ゴホゴホ…ケホッ、はぁはぁ…』 壁に振り返る拓斗。 「なんか様子おかしくねえか?」 『っ、苦し…ゲホッ、ゲホッ…誰か…』 テーブルからグラスが落ちて割れる音にハッとした。 拓斗が個室を飛び出した。 隣の個室をなんの躊躇もなく開けて飛び込む。 「おいっ!大丈夫か!?」 俺もそっと個室を覗くとテーブルに広がる鮮血に怯む。 「なんだよ!何か飲まされたのか?大丈夫か?救急車!ケイ!救急車!」 慌てて店内のカウンターに走る。 「救急車!隣の部屋の子が血吐いてる!」 カウンターにいたカップルも店員も慌てた。 様子が気になって個室に戻ると、真っ青な顔で拓斗の肩にもたれた女。 「おいおい死ぬなよ!運命が待ってんだろ!おいっ!」 「息…してんの?」 女の顔に耳を近づける拓斗。 「わ、わかんねえ!おいっ!ケイがいるぞ!運命的に出会うんだろ!目え開けろって!」 こんな時に何を… 女は瞼を震わせその瞳を静かに開く。 コバルト色の瞳が俺を探して捕らえる!
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