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警察に事情を聞かれて店を出た俺達。
「どうする?もう一軒行く?」
「いや、酔い醒めしたから帰る。」
「そか、んじゃ俺はあと少し飲んで来る。作詞頼むね!」
「ん…」
拓斗と別れ歩き出す。
「はぁ…」
コバルト色の瞳が思い出されて首を振ると酔い醒めの頭痛が余計酷くなる。
歩道沿いのコンビニに備え付けられた灰皿に立ち寄る。
こんなんで書けるのか?
本人が聞いてるとも知らずに延々と聞かされた想い、そしてあの瞳だ…
「なんで青いんだよ…」
行き交う人の流れを見ながら咥えた煙草に火を灯す。
ジーンズのポケットでスマホがピリリと鳴く。
母からのメールだ。
『今日遅い?帰りに牛乳買ってきて欲しいな…』
『オケ』
返信するとすぐに次がきた。
『あんまり飲み過ぎないでね。』
ふっと笑うと返信せずにスマホをポケットに沈める。
「はいはい。」
コンビニで牛乳と煙草を買い歩き出す。
「~♪」
曲なら浮かぶのにな…作詞は本当に苦手だ。
「ケイっ!」
驚いて振り返ると懐かしい顔に笑顔になる。
「お久しぶりです!」
「お前また身長伸びたな!何センチだ?」
俺の頭に手を伸ばすオッサン。
「182です。でも流石に成長止まってますよ、俺二十歳なんで…」
「二十歳か…はええな。もうそんなか…」
「はい。」
懐かしそうに目を細める髭面のこの人は今も現役のバンドマンだ。
今から20年前にかなり人気があったバンドのギターボーカルのジョーさん。
「リカは元気か?」
「はい、相変わらず…」
嬉しそうに口元が緩む。
「たまにはこっちのライブハウスにも顔出せよ。まーお前ほど有名になったらそれも無理か。」
「いやいや、んなことないですって。」
「アイツとリカの子がこんなにビッグネームになるとはな。」
「勘弁してくださいよ…」
「よし、飲みに行くぞ!」
俺の肩を掴む力強いタトゥーだらけの手。
「いやいや、今夜は…」
「なんだ女か?」
「作詞…やんなきゃいけなくて…」
顔をしかめるジョーさん。
「んなもんリカに書かせればいいだろ。」
「そーゆー理由には…」
「だよな。ま、俺も作詞は苦手だ。」
背中をバンと叩くとまたなと言って歓楽街へと向かう背中を見つめた。
黒い革ジャンの背中に書かれた『cBa』の文字とトゲトゲの鋲。
「cBa…か。」
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