『Up to one hundred souls of triplets』

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「しかし、なあ」  ポツリと久米は一人呟く。それ以上の独言はしなかったが、心の中では奇妙かつ不愉快な思いに久米はとらわれていた。 元・殺人者が住んでいた部屋かよ。あんま良い気分にはならんな。 と同時に変に打算的な考えも浮かばせる。 管理人と交渉して事故物件扱いにならねえかなあ。そうすりゃ家賃も少しは安くなるっぽいんだけど。まあ、そんなネゴシエートは無駄な労力の結果になるだけか。 グズグズとコーヒーを飲んでいた久米はスマホを見て時計を確認すると、そろそろアルバイトの始まる時間になったのに気づき、伝票を持って店を出ようとした。 「あ、長瀬の野郎、金置いていかなかった」  長瀬が自分の分の食事代を払わなくて店を後にした事に気づいた久米は、思わず声大きめに一人台詞を吐いてしまった。たまたま久米の席の横を歩いていた店員も一瞥するほどの声量。  久米は舌打ちしながらも支払いを済ませ、今度長瀬と会った時に利子付きで食事代の貸しを返してもらおうと画策していた。     
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