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<The Silent Blade>
闇は溜まり、夜は充(み)ちていた。
時刻は夜四つ(午後十時頃)。大村(おおむら)辰(たつ)馬(ま)は神田川に連なる柳原土手に身を潜める中、己の鼓動の乱れをひしと感じていた。
恐らく生涯最初にして最後、故に仕方ない。
大村はそう肝に銘じて、平常心を保てない自分を許容した。だが、実際にこれから我が身が起こす「闇討ち」という行為に必要なのは冷徹な平静さ。果たして手に汗握る己がそれを完遂するに、その冷静さをどのように掴もうかと焦る大村。その焦思は闇討ちの標的が現れる寸前まで続く。
狙うべき相手は廻船問屋を営む後藤数(ごとうかず)右(え)衛門(もん)。
来た、逃しはせぬ!
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