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成澤少尉視点
「あ、霞。帰ってたの?」
自室では同期の坂下 雪少尉が待っていた。
「雪姉ぇ・・・」
『話したくないことは話さなくてもいい。壊れそうになったら互いを頼ること。』同期の輪に混ざれず孤立気味だった私を救ってくれたのは、この二歳年上の姉のような同期との約束だった。
「あらあら・・・艦爆隊、大変だったね・・・」
彼女の胸の中で慰められていると、安心感からか溜め込んでいた感情が決壊した。悔やみ、悲しみ、怒り、様々な感情が涙とともにとめどなく溢れてくる。雪は、そんな私の頭をただ優しく撫でてくれた。彼女の手は、記憶の中の母の手によく似ていた。
坂下少尉視点
「泣き疲れて寝ちゃうなんて子供みたい。・・・余程辛かったんだろうね。」
戦場にいるとはいえ、まだ目の前で人が死ぬような場面は目にしたことがない。最前線で死を見てきた霞の心境を想像すると、なんとも言えない気持ちになる。
「こんなちっさい体で全部抱え込んで・・・もうちょっと楽してもいいんだよ。」
二つ下の可愛い妹分、彼女の助けになってやろうとしても空の上で手助けできることなど何も無かった。彼女の帰る場所、この母艦を正しい航路に進ませる。それが自分にできることだと今は信じている。
「さてと、私も色々やらんといけんのだけど・・・」
自分の膝の代わりになるものを探していると、
「石原です。成澤少尉はこちらですか?」
ビンゴ?、と心の中で叫ぶ。
「石原?!私、坂下。ちょっと入ってきて。」
「は、失礼します。」
「うんいいよ。でさ、霞、疲れて寝ちゃってるんだけど用事は?」
石原一飛曹は、私の膝で寝ている霞を一瞥すると、
「いえ、飛行毎に反省をやってるので今日もやるものかと思っていたのですが・・・」
私はにやりとして言った。
「じゃあ暇だね。私の代わりしといてよ。」
「はぁ、しかし自分は航空科で航海は専門外ですが・・・」
「だから違うって!私の代わりに膝枕してやってっていってんの!」
一瞬固まる石原。
「い、いやいやいや!?そんな恐れ多い!」
「あんたくらいしかいないって。上官だから手は出せないだろうし。それにペアだろ。じゃあよろしく?」
そう言って私は、ガンルームで終わらせる書類を持って外に出た。
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