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成澤少尉視点
「失礼します。成澤、参りました。」
「入れ 。」
騒動の後、国木田少佐からの伝言で司令長官室へと私は向かった。
「久しぶりだな、少尉。」
第四航空戦隊司令長官神岡源次少将は、八洲帝国海軍航空隊の生みの親と称される。小柄な体格ながら、歴戦の指揮官の威厳を醸し出している。地方の基地航空隊で燻っていた私の腕を買って四航戦に迎えてくれた恩人でもある。
「先程の戦闘は大変だったようだな。」
「はい、敵戦闘機は性能及び技量共に非常に優秀でした。」
「そんな敵を撃墜したそうじゃないか。大した技量だよ。」
「たまたまです。石原一飛曹が気付くのがコンマ一秒遅れていれば海の藻屑は私たちの方でした。」
謙遜するなぁ、と笑いながら神岡少将は一枚の紙を取り出した。
「辞令だ、成澤 霞少尉。貴官を本日より本艦の爆撃機隊隊長に任ずる。同時に大尉に昇進だ。おめでとう。」
ん?聞き違いだろうか?
「どうした大尉?返事は?」
「失礼ですが、今なんと?」
「貴官は今日から艦爆隊の隊長だ。」
悲鳴をあげそうになるのを堪えて神岡少将を見る。冗談を言っているようには見えない。
「失礼ですが私はまだ隊長職には未熟ではないでしょうか?」
「貴官は何度かの実戦経験もある。何より私がその能力があると判断した。」
「しかし・・・」
神岡少将は私の言葉を遮るように立ち上がると、私の肩に手を乗せて言った。
「貴官を引っ張って来たのは遅かれ早かれ隊長クラスの若い搭乗員が必要になると思ったからだ。貴官には期待していたのだが・・・」
口調は柔らかいが目が笑っていない。ここで断れば空を飛べなくなるかもしれない。
(ああもう・・・!配属から半年たってない新人に悩ませることかよ!)
「・・・分かりました。成澤少尉、拝命致します!」
神岡少将は肩から手を離し、嬉しそうに言った。
「よし。期待しているぞ、成澤大尉!」
神岡少将視点
「本当によかったのですか?成澤大尉を飛行隊長になどと。」
航空参謀である嘉永 五郎中佐は司令長官へと尋ねる。
「ああ、やつはなんかしらやってくれる。じゃからわざわざ呼んだんじゃ。」
神岡は戦闘詳報から目をあげて言う。
「一航艦の奴らは馬鹿だな。成澤の出自だけを気にして十年に一度の逸材を逃した。」
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