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路地裏に倒れていた少女は身体を起こすと、仰向けになって空を仰いだ。
「ああ、もう・・・!」
深紅の目で空を睨みつける。食いしばった歯には、鋭利な牙が覗いている。
(一対一なら絶対負けなかったのに・・・!)
少女は北方の吸血種族の血を受け継ぐ者、それ故にことある事に街の人間の標的となっていた。母は古に海を渡り未開の大地に移り住んだヴァンパイアの末裔で、人間の父と結ばれた。
その二人も、もうこの世にいない。二人が結ばれることに反対していた祖父母との生活は、まだ十にもならない少女には耐えられないものだった。
(こんな世界大っ嫌い・・・)
空を見上げ、少女は思う。
(ほかの何を投げ出してもいい。鳥のように自由に飛んで行ってしまいたい。)
悔しさ、不甲斐なさで眼から涙があふれる。しかし、次の瞬間。今までのモヤを全て跳ね除けてしまうようなことが起こった。
「人が・・・人が空を飛んでる!」
飛ぶものといえば鳥くらいしか知らない少女にとって、それはちょっとした事件だった。旭光のマークを翼に携えた小さな飛行機が編隊を組んで飛行していた。反射的に駆け出す。
(速い!速い!)
どこまでも追いかける。鬱屈とした気分は消え去り、未知の世界への憧れが湧き出てくる。鉄格子が見えてくる。飛行機は基地上空で急旋回し、高度を下げて着陸態勢に入る。金網に張り付いて少女は、その一挙一動を見逃すまいとする。
「飛行機に興味あるのかいお嬢ちゃん?」
背後からの声ではっと我に返ると、日はもうとっくに暮れかけていた。
「えっ!もうこんなに・・・」
不安そうな顔をすると、男は微笑んで言った。
「家は何処かな?送ってあげるよ。」
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