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航空母艦隼鷹の飛行甲板に降り立ち、出迎えた整備員に機体の整備を頼む。部隊の半数の損失それは半数の仲間を失ったことを示す。戦場に半年もいると人の死にも慣れるものだが、朝まで冗談を言い合っていた奴らがいっきにいなくなるのはかなりきつい。
「艦爆隊指揮官代行成澤霞少尉、報告にまいりました。」
「了解、始めてくれ。」
「はっ!艦爆隊は一一二五に攻撃開始。投弾に成功。敵機甲師団の排除を確認した後に帰還。帰路において、一二一一、黄河沖南に三十キロほどで敵要撃部隊に遭遇。損失は、十五機出撃中九機。敵戦闘機部隊は義勇軍ですが、機種はグラッドストン社製最新鋭機、F4F戦闘機だと見られます。」
ざわめきが広がる。
「合衆国はあくまで大陸にこだわるか・・・最悪の事態に備えるべきだな。少尉、敵戦闘機の様子はどうだった。」
「一言で言えば早いです。一撃離脱戦法でこられたら、九六艦戦では太刀打ちできないでしょう。零戦であれば問題ないと思いますが。」
情勢が開戦へと傾いている今、義勇軍とはいえ仮想敵国の情報を得ることができる機会を逃すわけにはいかない。旧式の九六式艦上戦闘機は格闘戦には優れているものの速度が遅く、今次大戦にはついていけないだろう。三山航空機製最新型、零式艦上戦闘機の配備は必須だろう。
「それでは失礼します。」
指揮所を出て自室へ向かう。悔しさ、虚しさ、沢山の負の感情が胸中を支配する。目の前で火を噴く隊長機。迫り来る敵機。水面に落ちていった友軍機は、波紋の墓標を作って沈んでいった。
(ヤバい・・・涙が・・・我慢しなきゃ・・いけないのに!)
士官たるもの何時でも堂々と、部下の前で不安そうな顔を見せるな。兵学校で口酸っぱく言われた文言を思い出す。
(しっかり私!)
頬をパンパンと叩き、歩き出す。
(さあ行くぞ成澤少尉!・・・)
一歩踏み出し歩きだそうとするが、
「いったあ!って国木田飛行長!大丈夫ですか?!」
「っつ、大丈夫だ。お前こそ変なとこ打ってないか?」
「だ、大丈夫です。少佐、これから司令と?」
「そうだがお前は・・・どうしたんだ?目、腫れてる・・・」
そこまで言ったところで少佐は、何かを察したような表情になった。
「・・・すまん、不躾な問だった・・・あまり気にするなよ。あの状況下、お前が帰投出来ただけでも奇跡だ。」
「だ、大丈夫です少佐!ご心配お掛けしました。私は大丈夫ですから!」
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